インタビュー 夢・希望・未来 ~想いのカタチ~

「気付く心眼」を持つ          介護福祉士を育てるために

松本短期大学 介護福祉学科 講師 齋藤 真木様

全国の大学・短大の中で介護福祉士養成校としては最初にスタート

Q.松本短期大学の介護福祉学科について教えてください。

松本短期大学は、長野県松本市の郊外、松本空港のそばにあります。
昭和46年に松本保育専門学校として開校し、現在は、幼児保育学科、介護福祉学科、看護学科の3学科約500人の学生が学んでいます。その中で、介護福祉学科は平成5年に介護福祉士の養成校としては、全国の大学・短大の中ではいち早く開設されました。

今までは、介護福祉士の養成校を卒業すると同時に介護福祉士の国家資格を得ることができましたが、法律が変わりまして、今年卒業する今の2年生からは、卒業時に国家試験の受験資格が得られるということになりました。つまり、卒業直前に国家試験を受けて合格して、初めて介護福祉士として働くことができるのです。

そこで、本校は、卒業前に国家試験を受けて全員合格して、質の高い介護福祉士として現場で活躍できることを目標とした教育内容となっています。
2年間の学習内容としては具体的に、「人間と社会」という領域で、社会のしくみや、法律・制度、人の権利や尊厳といったところを学び、2つめに「こころとからだのしくみ」という領域で人の心や身体のしくみ、病気や障害などについての知識を得て、3つめに「介護」という領域で、介護を必要としている人が豊かな自分らしい生活を維持していただけるような、様々な生活支援の技術などを学んでいきます。
さらに、うちは短大ですので2年間かけて、各自で決めたテーマで介護福祉研究を行い、論文にまとめ、パワーポイントを使って学内で研究発表会を行っています。その時には、学生のご家族や実習先の施設の方々も駆けつけてくださいます。

「国家試験合格」と「現場で伸びる人をつくる」この2つがポイントですが、課題でもあります

Q.今回から、卒業すると「国家試験の受験資格が得られる」ということですが、今までと体制が変わってくるかと思います。その点での不安などはありますか?

不安は不安ですよねー…(苦笑)いろいろな学生が在籍しているので、全員を合格基準まで持っていけるのかと言う点では不安があります。学校としても試験対策講座なども設け、学生も頑張っていますが…。
また、実習などを通して、現場で対人関係がうまく行かず「介護福祉の現場で働くのを諦めようかなぁ…」と言う学生も中にはいますので、国家試験対策と並行して、そういうところもサポートしたいですね。

現在、介護福祉を担う人材が全国的に不足している中で、少しでもいい人材を送り出したいという願いはあります。「国家試験合格」と「現場で伸びる人をつくる」この2つが重要なポイントですが、課題でもあります。

特性を活かした道へ進んでいかれるというのが中々難しいところで、今後の課題です

Q.障害者差別解消法も施行され、大学側も色々と対応が必要なことも出てくるかと思うのですが、対応についてはどのように考えていますか?

色々な障害を持った方に学ぶ機会を提供していくことは学校として、出来る限りの対応をしていこうと思っています。身体に障害がある方たちはどのようなサポートをしたらいいのかある程度予測はつくのですが、学習障害や精神的に障害がある方ですと、中々難しいですね。

というのも、ご本人やご家族が障害の特性を理解されていない。ご本人が自覚されていないし、ご家族もそれを認めようとされない場合が多いのです。診断を受けていたり、ご家族の方から「こういう風にサポートしてほしい」とお話を頂いたり、本人が自覚されていたりという場合は、サポート側もとてもやりやすいとは思うのですが。やはりそれが認めきれないところがありますよね。では、どういう風に伝えたらいいのか、何に困っていてどんな方法でサポートしていくのか、周囲との公平性は、などなど問題はたくさんあります。

次に、卒業して、資格を取得したとしても、今度は就職という壁があります。たとえ就職できたとしても、しばらくしてやめざるを得ない人もいます。一人ひとりの特性を活かした道へ進んでいかれるよう導いていくことが中々難しいところで、今後の課題です。県でも講習会などを開いて、高校と大学とか、大学とその先とかの連携という事も言われてはいるのですが、個人情報の保護ということもあり、その辺りも課題だと思います。

外出したいという事をサポートするときに、学校周辺を歩くだけの実習では足りないと感じた

Q.「車いすの街歩き」を始めたきっかけについて教えてください。

「車いすの街歩き=障がい者の外出支援」についての授業で、実際に松本市街地に車いすで出かける(本校から松本市街地までは自動車で30分の距離)ようになって6年めになります。

以前は、すぐ近くの松本空港周辺まで、車いすで行って戻ってくることは毎年実施していたんです。でも、このあたりの地域はご覧の通りのどかなところなので、あまり勉強にならないというか…。せいぜいコンビニに寄って買い物をしてみる程度でした。
しかし、今、障がいがある方たちの外出や旅行の機会を増やそうという動きがどんどん高まってきています。その中で、介護福祉士として現場に出た時に、ニーズに応えることができるのだろうか?この辺を歩くだけの実習では足りないのではないか?と考えたのが、きっかけですね。

毎年10月に、授業の一環で、グループごとに計画を立ててJRや路線バスなどの公共交通機関を使ったり、松本の繁華街などを歩いて、ショッピングやいろいろな施設などを見学したり、外食をしたりという体験をしています。

6年も続かれると、周りの皆さんも「この季節がやってきたなぁ」などと感じていそうですね。

そうですね。「去年も学生さんいらっしゃいましたよね」などと、時々声を掛けられます。

最初は、車いすで実際に街へ出てみることで、「利用者様の外出を安全に快適に支援する力をつける。」というのが一番の目的で始めたんです。でも、体験をしていく内に「街にはいろんなバリアが本当に多いんだ」ということに学生が気づくようになりました。「物理的なバリアはもちろんだけど、その他にもいろんなバリアがあるよね…。」という話になり、ではそのバリアをどのように克服していこうかと…。

物理的なバリアという点では、6年の間に段々に整備は進んでいることがうかがえます。でも、置き去りにされている部分も、まだまだたくさんあります。周りが気付かない部分もあるので、学生が気付いたところについては、行政の方に提言していこうという風にしています。

そして、もう一つ大切だと思うことは、「障害のある方が、(私たちは車いすですけれど)どんどん街に出ていく」姿を周りの人に見て頂くことです。いろいろな状況の人の姿を見て気づくことが、人間関係におけるバリアの解消につながっていくのではないでしょうか。ちょっと声を掛けてみたり、「こういうことやってあげたらいいのかな?」っていう気付きが広がる(私たちの姿を見て頂いて)ということも、今では大きな目的の一つになっているかなと思っています。

まずは自身が体験することから

Q.街歩きを通して、生徒さんも、意識がだいぶ変わるかと思いますが…いかがですか?

そうですね。まずは、物理的なバリアの部分は、いろんな場面で感じてきます。
どういう風に乗り越えて行けばいいのか、介護していけばいいのかというのは実際にやってみて初めてわかることだと思いますね。

また、利用者役と介護者役の両方を体験してみると「周りからの視線が痛い!」っていうんですよね。その辺を感じることも一つ経験だと思います。車いすに乗って、押してもらっていると「介護者が疲れるだろうな。」とか、ちょっとした介護者の言葉にも気を遣うんですよね。そういうのも利用者役をやらないとわからないですしね。
歩いてみたことによって、街を見る意識も変わるし、介護をする意識が変わっていくというのが大きな収穫ですね。

今回、授業を見学させていただきましたが、砂利道のサポートの仕方は初めて知りましたし、中々体力を使いますよね。

そうですね。砂利道では、車いすのキャスターが砂利にはまってしまい、動けなくなってしまうことがあります。そこを通るのには、ちょっとしたテクニックが必要ですよね。

また、例えば歩行者は何気なく歩道を歩きますが、実際は歩道って車道に向かって斜めになっているんですよね。その斜めの所を車いすを押して歩くというのは大変なんです。どんどん車道側に進んでいってしまうし、車道と歩道の間のちょっとした段差にキャスターがひっかかって、すごい振動がきたり、利用者も介護者も大変な思いをしています。

その他にも、例えばJRの駅ですと、一日の利用客が5000人以上でなければエレベーターを設置しなくてもいいそうなんです。都会の方ですと、車いすの利用者が公共交通機関を利用されている姿を見かけますが、この辺りはまだエレベーターなどがない駅が多いです。
学生4人で車いすごと利用者を持ち上げて駅の階段昇降をしてみたのですが、乗っていた人は「怖かった!」と話していました。
ホームと電車の間の乗り降りについては、駅員さんが、「スロープを利用しますか?」と声をかけてくださることもあります。「ありがたかった!」というグループもあれば、スロープは無しで自分たちの力で乗り降りしてみるグループもあります。それが実際はとても「怖い」そうです。この経験がやはり印象としては強く残るみたいです。

もちろん、外出体験の前に電車昇降等の練習は学内で十分行うのですが、実際にやってみるたいへんみたいです。見兼ねた他のお客様が手伝ってくださったりもするんですよ。

もっと外出しやすいような環境を確保しなければいけない

Q.バリアフリーの現状について、何か感じていることはありますか?

1つ例を挙げさせて頂くと、私の84歳の母が、股関節の調子が悪く、やっと家の中ならなんとか歩ける状態なんです。去年までは車の運転をしていたのですが、とうとう思い切って免許の返納をしました。

長野県は、1人1台車を所有しているような土地柄ですから、免許返納によって外出の機会は極端に制限されてしまいました。
私の住んでいる市の場合は、オンデマンド交通のシステムがあり、免許返納時に利用券を少し頂いたのですが、すぐに使い切ってしまい、今は毎回現金払いなんです。また目的地まで行くのに乗り換えが発生するので、乗り換えに1時間待ったということもざらにあり、以前のように好きな時に好きなところへ行くという事が出来なくなってしまいました。

例えば、普通のタクシーをもっと使いやすくしてもらえたらいいなと思います。タクシーでも、障害者手帳を持っていて、かなり等級が上の方でないと割引が効かないので、もっと、免許を返納された方達にも救いの手を広げてほしいなと思います。
今、高齢者が運転していて事故を起こしてしまうことが度々報道されていますよね。ですので、気軽に免許を返納できるように、もっとその人たちが外出しやすいような環境を確保しなければいけないなと思います。体が不自由になっても、外出を楽しみに、活動的に暮らしていかれればいいなと思います。

もう1つ、こちらも母が例になりますが、母は美術館巡りとかが好きなんです。今、公共施設やスーパーなどに車いすが置かれていて、よく利用させていただきます。ところが、その車いすのタイヤの空気が抜けたままのことが多いんです(ノーパンクの車いすを使用されている施設もあります)。空気が抜けたまま車いすを使うと、押す方もかなり力が要りますし、振動で乗り心地が悪い。そして、ブレーキは効かないし危なんです。
当事者じゃないとわからないと思うので、気が付いた時には声をかけるようにしていますが。空気が抜けたままの所って結構あるんですよね。施設に車いすが置かれるようになったというのはとてもありがたいのですが、利用者の立場になってというところまで浸透していくといいなぁと思います。

将来的に現場でリーダーになり得るような学生を育てていきたい

Q.介護福祉士の役割とは?

一言でいうと、介護を必要としている人が「その人らしい生活」を送るためのお手伝いをすることだと思います。「相手の立場になれる」「人の気持ちが分かる」という優しさと共に「気づく心眼」を持ってほしいというのが一番の願いです。

介護福祉士の養成校に通わなくても、現場で3年働いて経験を積み実務者研修を受ければ介護福祉士の受験資格が与えられます。
このようにして、働きながら頑張って介護福祉士の資格を取る方もたくさんいます。それは本当に素晴らしいことだと思います。

しかし、現場で見様見まねで覚えていくのと、学生(養成校で学んだ)が、一つの動作でも「だからこうするんだ」と根拠をもって考え行動できるように学習してから現場に出ることには大きな差があります。
もちろん、現場で学ぶという事は重要ですが、現状として、人手が足りなくて研修が十分にできないようなところも多くて、本当に見様見まねで介護の方法を習得している方が多いのです。
そこで私たちは根拠のあるしっかりしたものを持った、将来的に現場でリーダーになり得るような学生を育てていきたいなと思っています。

介護福祉の魅力を感じてほしい

Q.卒業された学生さんは、やはり福祉関係に就職されるのですか?

少数派として、一般企業に行く子もいますし、進学する子もいますが、ほとんどは福祉関係に就職しています。

Q.学生さんはどのような志望動機で入学されていますか?

志望動機は様々ですが、自分の家族でおじいちゃんおばあちゃんの介護が必要であるとか、親が介護職として働いている姿を見て、自分も介護福祉士になりたいということが多いですね。2年間学ぶことで、介護福祉の仕事の魅力とかそういうものを感じて、卒業していってもらえればいいなと思います。

その一方で、実習等を経験しても、介護を学んでいる学生が介護福祉の現場に魅力を見出せなくて…ということもあります。現場も忙しいからということもあると思いますが、実習に出て、働く人の姿を見て「なんかちょっと違うんじゃないかな」と思ってしまったり、指導のされ方などで傷ついてしまったりして「介護の道に進みたくない」と思う学生も出てきているのも事実です。

言葉で魅力というものは中々伝えられないものですが、「先輩方のように、こんなふうに風に働きたいんだ!」「利用者様から、笑顔とありがとうのことばをいただける仕事って素敵!」と夢をもって卒業できるように送り出してあげたいなと思っているのですが。

Q.ちなみに、齋藤先生はなぜこの道に進まれたのでしょうか?

学生たちと同じ20歳前後の頃、福祉に興味はあったのですが、その世界に飛び込もうと踏み切れずに社会人になりました。
うちの子供がまだ小さかった時に、長野市に住んでいたんですが、私が卒業した長野社会福祉専門学校が開校されたんです。長野県では最初に介護福祉士の養成校として開校されたのが、私が30歳の時でした。ニュース等で取り上げられて「こういう学校があって学ぶことが出来て、福祉・介護の現場に入ることができるんだな」と分かって、「じゃあちょっと勉強してみたいな」と思ったのが、この世界に入るきっかけになりました。

専門学校に入り、2年間で介護福祉士を取りまして、子供が小さかったので(当時は)夜勤が無い社会福祉協議会のヘルパーとして仕事を始めて、訪問介護員や、デイサービスセンターの生活相談員の立場で数年勤めました。その内、出身の学校から「教員にならないか?」と声を掛けられまして、勉強をしながら介護福祉士養成校の教員になって今に至ります。

若い人たちを育てていくところに携われるという喜びはすごくあります

Q.学生さんに期待することや、齋藤先生のやりがいについて教えてください。

学生たちが「2年間でどう変わるか」って言われると、そんなに変わらないんですけれど、2年間で学んだことが基になって、社会に出て伸びてゆく姿を見られるので、そういうところに期待したいなと思いますね。特に介護福祉学科の卒業生は本当によく学校に遊びに来てくれます。「仕事で業績挙げているよ。」と言う話や、結婚の報告、中には子供の成長を見せに…。

私自身、現場で介護福祉士として仕事をしていた時も、利用者様との関わりは本当に楽しくて、仕事大好きでした。それから教員という立場になってみると、今度は若い人たちを育てていくということに携われるという喜びはすごくありますね。
例えば、学生が施設で実習をしている時に、その施設へ教員が巡回指導に伺うんです。その施設で、卒業生が頼もしく働いている姿を見たときなんか、とても幸せですね。これからも、もうしばらくこの仕事を続けていけれればいいなと思っています。

取材日:2016年4月13日