インタビュー 夢・希望・未来 ~想いのカタチ~

これがあったら渡れる!みんなの安全を守るLED付音響装置

篠原電機株式会社
社会貢献推進室
参事 兼崎 暁美 様

交通安全白書によると、もっとも交通事故が起こりやすいのが交差点内です。信号機を認識するのが困難な視覚障がい者にとっては「命がけ」と言っても過言ではありません。

そうした危険を少しでも軽減するために開発されたLED付音響装置(正式名称:高齢者・視覚障がい者・盲ろう者用LED付音響装置、愛称:アイシグナル)。

見つけやすく(地上1メートルの高さにLED表示)、見やすく(横断歩道の手前で確認可能・色だけでなく形でも赤と青が識別可能)、聞きやすく(耳の高さから発せられる音響信号)、触ってもわかる(振動により青信号を通知)。

歩行者用信号機の補助装置として、通常の信号機だけでは横断が難しいとされる方々の助けになっています。

このLED付音響装置の製造・販売をおこなう篠原電機株式会社の兼崎暁美様に、開発の経緯から今後の展開までさまざまなお話を伺いました。

スピーカーが低い位置に付いているため聞き取りやすい。ポールが振動して青信号を知らせるタイプもある。

音響ポールの利点を生かしてはじまったプロジェクト

Q.LED付音響装置の開発が検討された経緯を教えてください。

視覚障害の方から「歩行者用信号機が見づらい」という声を聞いたんです。実は弊社は40年ほど前から、大阪府警さんの管轄内で、音響ポールという、スピーカーと押しボタンが付いた黄色のポールを開発していました。それが大阪府下には2,000ヵ所ぐらい付いてるんです。

音響ポールはスピーカーが地上1メートルの位置にあるんです。耳元に近いので聞き取りやすいのと、渡ったところから鳴ってくるのでその方向に歩きやすい、という利点があります。大阪以外の他府県は3.3メートルの位置にスピーカーが付いていて、横断歩道の真ん中に向けて鳴らしているんです。なので騒音にもなりやすいのですが、低い位置にある音響ポールは騒音になりづらく、また音が鳴っている方向へ向かいやすいことは福島大学と大阪大学の先生と検証をおこなって、結果も出ています。

大阪府警さんにはご理解をいただいているのですが、(信号の補助装置は)各県警ごとの採用になるため、他府県ではまだなかなか採用してもらえなくて。岩手、福島、愛知、和歌山でも採用いただきましたが、これを全国的に広めたいな、というのが、LED付音響装置になってからですね。

Q.篠原電機様の中から、こういう製品を作ろう、という動きがあったのですか?

(インタビュー冒頭のとおり)視覚障害の方から「見づらい」という声を聞いたので、じゃあ自社製品で多数の設置実績がある黄色い音響ポールに、赤と青の信号を付けたらいいんじゃないか、という前会長の発案でスタートしました。

3年間の検証の末、第一号機がJR茨木駅前に誕生

Q.LED付音響装置の開発をスタートされたときの状況を教えていただけますか。

2008年頃から、開発・検証をはじめたんです。やっぱり人命にかかわるものですから、いろんな検証が必要で、3年かけて大阪大学と近畿大学の先生にも入っていただいて進めました。

その検証の過程で改良に至ったのが、LEDの表示方法。当時はLED電球の価格が高かったので、赤信号を赤色の×、青信号を青色の○(の線で表示するだけ)にしたんです。

それで視覚障害の方に検証してもらうと、視野の狭い人からは「わかりづらい。×の表示だけだと電球部分の数が少ないから、視野の範囲から抜けてしまう」とご指摘をいただき、問題があることがわかりました。色弱の人も見づらい、ということで、赤信号は赤色の■(四角形)、青信号は青色の●(円形)で塗りつぶすように大きく表示することにしました。こういったことを検証しながらやっていったんです。

横断歩道の手前で注意を促す赤信号

Q.製品として販売されたのはいつからでしょうか?

警察庁から許可をもらわないといけなくて。3年ぐらい検証したあと、(前述の大阪大学・近畿大学の)先生方にまとめてもらった検証結果の資料や、アンケート調査、事故が減ったというエビデンス、それに利用者のみなさんの声なんかを提出しました。それで認めてもらえてから、初めて設置したのが、2012年JR茨木駅前です。ラジオ大阪のチャリティーミュージックソンの寄贈によるものでした。

その翌年、実証実験をおこなっていた鶴見警察署前のLED付音響装置が試験用の設置から本設置に変わりました。そこから毎年設置されるようになりました。

畑違いの仕事からプロジェクトの外交担当へ

Q.それまでは、兼崎様は社内でどういったお仕事をされていたのでしょうか。
また、LED付音響装置に携わるようになられたきっかけは何だったのですか。

最初は技術開発室で自社製品の開発に従事していました。当初は配電盤部材がメインでしたが、視覚障害の方が困っているというお話を受けて、会長が先頭に立ってプロジェクトを立ち上げ、メンバーに加わりました。2008年のことで、それ以来ずっと関わってます。

Q.スタート時点では兼崎様以外に社内のほかの方も関わってらっしゃったんですか?

直属の上司と、設計や組み立てなどそれぞれの部署の担当者がいました。ですけど、大学や警察との調整であったり、外部のいろんな方と一緒に検証するのは私がやってきました。

実際に有効かどうかを検証するために、最初は盲学校でおこない、高齢者にも有効だろうということから老人施設だったり、多くの人が集まる温泉施設の駐車場でお客さんに試してもらったりもしました。次に、仮設置の形で、大阪市天王寺区にあるお寺・四天王寺でもおこないました。毎月多くの参拝客が訪れる行事の日があって、大阪府警さん協力のもと検証したんです。そして実証実験の最後として、前述の鶴見警察署前に8本付けて、設置前と設置後の検証をおこないました。

大阪府警さんが出してくれた、設置前5年間と設置後5年間の事故データは、56%減少という結果でした。

そのときの警察の方のコメントとして、「自転車の人の目線的にもちょうどよく、横断歩道を渡った先にある信号を見ると(赤に変わりそうなとき)急いで渡ろうとするが、手前にある信号を見た人は止まろうという抑止力が働いてるように思う」と言われました。だから一般の人にも効果があるのではないかな、と。

それから、小さい子どもさんの目線にも合うので良い、という話はよく聞きました。また知的障害児の教育に携わる先生からも、信号を教えるのにすごく説明しやすいというお声をいただきました。

子どもや車いす、お年寄りの目線の高さになっている。 夜でもはっきりと見やすく交通事故も減らすことができる。

丁寧な説明と実際の体験からその良さを知ってもらいたい

Q.現在LED付音響装置の普及のためにどういったご活動をされていますか?
また苦労されていることなどがございましたらお聞かせ願います。

視覚障害者団体様の展示会に実機をそのまま持って行って、触ってもらって、音を聞いてもらって、納得してもらうようにしています。言葉だけで伝えるのは難しいですから。

たとえば、車両用の信号機って「赤・青・黄」ですが、全盲の方から「黄色ってなんですか?」って言われたことがあるんです。その方たちは、歩行者用信号機しか知らないので、「赤・青」だけなんですよね。それぐらい視覚からの情報は大きいので、できる限り触ってもらったり聞いてもらったりして丁寧に伝えるよう、全国の展示会を回っていました。

Q.視覚障害の方の反応はいかがでしたか?

皆さん「持って帰りたい」、「これがあったら渡れる」とすごく気に入ってくれました。

展示会場に置いて、音を出して「向こうまで渡れますか?」と尋ねると、「あ、わかる!」と言ってくれます。

それと、青信号では振動するようにもなってるので、盲ろうの方が喜んで、喜んで。「これだったらわかる!」と飛び上がって喜んでくれました。

Q.盲ろうの方も、症状はいろいろだと思うのですが、おひとりで外出されることはあるんですね。

いらっしゃるんです。盲導犬連れて、とか。ひとりで行動できる方は、手引きなどのサポートなしにで出かけられるんです。やっぱりちょっとそこのコンビニまで、とか、わざわざ誰かにお願いして、というよりはね。そこへ行くときに信号があっても自分で渡れるようになったら、すごく嬉しいって言ってくれました。

みんなが自分で外出しやすくなるのが一番ですよね。

世界に向けて、そして会社全体に響くためのチャレンジを

Q.コロナ禍で展示会がほとんどない中、活動の仕方を変えられたりしましたか?

この10年ぐらいやってきて、いろんな人が困ってて、いろんな人の手助けをしたい、と思うようになりました。そこで、世界でも必要としているところがあるなら、と海外に向けてチャレンジしています。ジェトロ(日本貿易振興機構)さんの支援を受けてやりはじめたところです。まだどうなるかわかりませんが、いろんなことをやってみて、どこかで人助けになったらいいな、と思っています。

もうひとつは、大阪・関西万博の共創チャレンジ「チーム OTAGAISAMA(おたがいさま)」に入れてもらってます。このチームの取り組みは、スマホから街中の情報を得て視覚障害者のバリアをなくしていこうというもの。弊社の装置はスマホを持ってなくても(弱視の人は)近づけば見えて、音を聞いて、触ってわかる、いわゆるローテクなんだけど、スマホが進化しても違う部分でこういうのもいるんじゃないか、と知ってもらえたら、との思いで参加しています。

Q.最後に、今のお仕事での目標、社会全体に期待すること、兼崎さまご自身がやっていきたいこと、なんでも結構ですので今後についてのお考えをお聞かせください。

やはり教育ですよね。子どもたちにも小さいときから情報が行きわたれば、視覚障害の方がいたら、道路を渡りにくそうにしてるなとか、駅のホームでも気を付けてあげやすくなるじゃないですか。そうやって全体にみんなが手助けできるような世の中になるのが一番だと思っています。

あとは、前の部署にいたときは、もちろん会社として利益を追求しなければなりませんでした。今は社会貢献推進室になっているので、社会に貢献することが会社にもプラスになると思って、いろんなことにチャレンジしています。

会社としても誰かのために貢献できて、それによって社員が誇りを持ちそれぞれの仕事をやっていけば、また違ってきますよね。

SDGsの考えのように、この仕事はこれから先も繋いでいかなければいけないんです。ただ、私がずっといるわけじゃないし、直接誰かにつなげられるかはわかりません。だから、社員みんなにちょっとでも響くようなことをやっていって、それが何パーセントかずつになっていけば、という思いでやってます。

口だけで社会貢献だとか言ってても、何やってるの?ってなるでしょ?なので海外や万博に向けて頑張っています。

取材日:2021年8月30日

 

篠原電機株式会社 LED付音響装置サイト
https://www.shinohara-elec.co.jp/products/ccat_list.php?bun=50&bcat=516