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インタビュー

長野県松本盲学校 校長の写真

「夢」を描ける盲学校を目指して

長野県松本盲学校 校長矢野口 仁 様

将来的に自立して社会参加をして頂くために、出発点を丁寧に聞き取る

Q,盲学校について教えてください。

 

盲学校とは、視覚障害がある方々のために設立、運営されている学校です。
一番目の目的は、その方々に障害があっても将来的に自立して社会参加をして頂くために、私共がお力添えをさせていただくことでございます。
クラスは、大きく分けて2種類ございます。一つは「単一障害学級(視覚障害のみ)」【適切な器具や学習方法を工夫することで小中学校、あるいは高校に準ずる教育を行う学級】。もう一つは「重複障害学級(視覚障害に加え聴覚障害や知的障害等の複数の障害がある)」【障害の状況に合わせた特別な教育課程で教育を行う学級】です。

 

学級の所属は、一人ひとりに対して、どのような障害の状況でいらっしゃるのか、また、何を目指していきたいのか等について、ご本人や家族のお気持ちや意思を丁寧に聞かせて頂いて、出発点を聞き取っております。諸検査も丁寧にするように努めています。見え方は百人百様あるものですので。
見えにくさの実態やご希望に合わせて、どういう教育を組んだらいいのかを、できるだけお一人お一人に合わせて考えるようにしております。

 

また、盲学校はどこも人数が少ない学校なのですが、その一方で知的障害や肢体不自由のお子さんたちの割合が増えている現状があります。また、複数の障害があるお子さんも増えているため、学校を再編成するときに盲学校とほかの障害種の学校を同じ敷地に建てていこうとする流れが全国的に広がっています。
その際、私どもとしては、他の障害種の方々と混合するのではなく、盲学校の場所と先生方は用意していただいて、その代わり、交流をうんとやりましょう、というコンセプトでお願いをしております。
体育の授業を例に挙げますと、それぞれに一番適した種目というものがあって、両方を同じ空間で同じメンバーでというのは難しいんですね。なので、それぞれに適した環境を用意して授業は別々で行いますが、その代わり、音楽など一緒にできるものは一緒にやりましょう、と言ったフレキシブルなものですね。

「夢を持つことに積極的になろう」「みんなで力を合わせよう」

Q.学校を運営していくにあたって心に留めていることはありますか?

 

一言でいうと、視覚障害のある方にとっての最善の学校になっていく、と言うことに尽きますね。そのための手立てといいますが、キーワードが「夢」だと自分は思っています。「夢」を描くことができるのも一つの能力ですし、先生たちも幼児児童生徒たちも、保護者の皆さんも、学校という場で「夢」を描いて、それに向かっていく楽しさをみんなで共有して、その過程で学んでいくということがすごくいいことなんだろうな、と思っています。
今小中学校ではコミュニティスクール化という動きがあって、地域の皆さんと共に良くなっていきましょうという考え方で動こうとしているんですけれど、視覚障害者や視覚障害者を支援してくださる方々をある意味「地域」と考えて、そういう方々と私たち盲学校で共に手を携えてより良い最善の学校を目指していきたいなと思っています。
校長講話では「夢を持つということに積極的になろう」とか「それを追い求める時に皆で力を合わせよう」とか、「本人が頑張っていることは、周りの人にもすごく励みになる」、「あなたは自分のために頑張るんだけれど、あなたが頑張ってくれることは周りの人にも幸せをもたらしてくれる」、「うんといいことをしているのだから頑張ってね」っていう話を繰り返しさせて頂いています。

「私たちも応援するよ!」と本人に伝えることが大切。

Q.夢を描くとのお話がありましたが、エピソードがあれば教えてください。

 

地元の小学校に通っていたけれど、中学から当校に来られた生徒さんがいらっしゃいました。難しい事情があったのでしょうね。モチベーションが上がらなかったんです。でも、根本にはお友達が大好きで、地元でまた何とか頑張りたいと思っていたのでしょう。その子は、「高校に進学したい」とお話しされたんですね。本校の高等部ではなく、地元の普通科の高校です。

 

視覚障害のある方が普通科の高校で勉強されるというのは中々難しいんですけれども、それを実現するためにみんなで何ができるか、ということを教員で話し合って、授業をし、受験対策もし、地元の中学校さんに協力をお願いして中学校でやる試験を一緒に受けさせて頂いたりしました。試験結果を高校の方にお知らせして、「こういう風にしていくと高校の授業についていけるのですが、何とかお願いできますか」と、進学の基盤を作らせていただきました。

 

一番はやはり「私たちも応援するよ!」ということを本人に伝えることで、本人の受験に向けてのモチベーションが上がるよう努めることも大切かと。幸い本人のやる気も高かったので、合格することができました。入学した高校の最初の定期考査で、上位に入ったとお聞きしまして、とても嬉しかったですね。

盲学校を積極的に選択していただけるような学校へ

Q.100回目の卒業式を迎えていかがですか?

 

100回続いたことの意義はすごく大きいなと思いますね。

 

松本盲学校も山あり谷ありで、かつて在籍者が100名を超えた昭和40年代前半のような時もあれば、10年前のように小学部の子どもさんが0人という時もあったんです。

 

学校はあるのだけれど、該当する子どもさんたちに来てもらえないという時代がありました。似たようなことがきっと過去にもあったとは思うんですけど、それでも卒業生が途絶えること亡く100年続いてきたという事は、みんなが盲学校を続けるんだという関係者の強い意思があったからだと思うんですね。

 

なので、自分もこれから将来に向っては200回まで続くような盲学校にしていかなきゃいけないな、と思っています。

 

昔はですね、目の悪い方は盲学校に行きなさい、という世界だったんですね。中には嫌々来なきゃいけない方もいらしたわけですけど、今は基本的に「どこに行きたいです。」とご本人と保護者さんが意思表明をされると、それが尊重されるシステムに代わりましたので、かなりの数が小中学校にいらっしゃるんです。
そういう方々にも「盲学校に行った方が自分の力が伸びるわ。」「いい人生が切り開けるかもしれないわ。」「地元はこっちだけど、学ぶ場はこっちの方に僕は行きます。」というような気持ちで積極的に選択していただけるような盲学校にしていきたいと思います。

 

盲学校側も子どもさんが来るのを待つだけでなく、「生徒さん来てくれないかな~!!」という気持ちをもって、そのために自分たちがどうなって行けば結果が出せるのか、と考えていくことも楽しいですよね。そういう考えを教員一人一人が持ちながらやってくれると、すごく魅力的な教師集団になったり、学校になっていくと思うんですけど、そこを目指していくために「選ばれる盲学校」というコンセプトを持ちたいですね。

「打って出る盲学校」をモットーに

Q.全国盲学校校長会の会長としての思いを教えてください。

 

まず、全国盲学校長会っていうのは、盲学校の校長同士の研修の組織なんですね。

 

盲学校の教員上がりの人が校長に必ずしもなれるというわけではなくて、小中学校の校長とか高校の校長から盲学校の校長になるパターンが少なくないんですね。

 

だけれども、盲学校に勤めていく職員の中にはもう何十年もその学校に勤めているという人もいて、職員の方が詳しいんですよ。その中で学校を経営していくには、校長が短期間で「盲学校とは何か」をうんと学ばなくてはいけないんですね。そのための情報提供をしたり、相互に質問して回答したりしていくのが全盲長会です。

 

活動についてですが、「打って出る盲学校」をキャッチフレーズにして活動しおります。

 

自分たちがやっている教育実践をどんどん発信して、「皆さんに来ていただいて必ず満足いただける学校でありますよー!」と知っていただく努力をする活動を全国各地でやろうとしています。先ほどの話にも繋がるんですけど、本当に自分の意思で選択してここに来てもらえるような、「選んで頂けるような盲学校」になって、子どもさんたちも増えてますますにぎやかになるような、そんな盲学校にしたいなと思っています。

 

錦城護謨さんからこのようなご縁を頂いて、私たちも学校としてお付き合いを頂いているわけですが、この流れっていうのは全国盲学校長会の流れでもあるんです。

 

前会長も積極的に校外の力を取り入れて、「子どもさんたちにとって少しでも良くなるものがあったらどんどん提携の輪を広げていこう」という考えをお持ちでした。
今の自分の考えは、まさにこの校長会があればこそだと思っています。

 

錦城護謨さんとのご縁を頂き、誘導マットを使わせて頂いて、「視覚障害のある方々のために商品開発をしてくれて、普及のために全国を回ってくださる方がいるんだよ。盲学校を応援してくれている人がいるんだよ。」ってことを、自分はマスコミ等通じて健常な方や視覚障害のある方に発信をしているつもりなんです。こうやってみんなで何とかいい社会を作っていこうとしてくれるので、盲学校も頑張るから、皆さんもまた一緒にやっていきましょう、と思いながらやらせて頂いております。

基本的に障害のある方に優しい社会は、誰に対しても優しい社会

Q.現状のバリアフリーで感じることは何かありますか?

 

国を含めて全体的な流れとしては、「障害があっても世の中で暮らしていけるようにしていきましょう」という良い方向に向かっていると感じていますが、障害のある方、例えば視覚障害のある方が安心して外に出られるように頑張ってくださるものがさらに続いて、さらに力強く推進していってほしいなぁ、と言うのが今の思いです。

 

「もっともっとやって欲しい」といいますか、障害のある方に配慮のある社会・施設設備とかですね。出来てみると、誰にとってもいいんですよ。表示にしても段差にしても。

 

安全や安心、過ごしやすさのためにコストは掛かるんだけど、そのことを補っても余るくらいの安心感はきっと確保されてくると思うんです。今、社会を挙げて点字ブロックや転落防止のホームドアとかが整備されつつありますが、あれも日本中の人が安心して生きる世の中に繋がっていくはずだと思います。各自が調子悪くなった時にてき面に感じますけど、基本的に障害のある方に優しい社会は、誰に対しても優しい社会なので、やっていって間違いないと思います。

ぶつかることではなく、怖さを感じることについてもう少し配慮していただければ

Q.みなさんへお願いしたいことはありますか?

 

ほんとに小さな例なんですけど、自転車なんですよね。

 

自転車って音もなくひゅーって、突然通り過ぎていくので、視覚障害のある方々からするとすごく怖いんですって。そこがですね…。

 

地域的なものかもしれないんですが、歩道を通られる自転車が多くて、上手によけてくださる方がほとんどなのでぶつかることもあまりないんですが。やっぱりね。怖い。っていうのはありますね。それから、白杖を持って歩かれる方が右側通行をしていても、後ろから抜かれていくことがありまして、ぶつかるということではなくて怖さを感じることについて健常な方がもう少し配慮していただければありがたいなぁ。と。

 

これは、視覚障がいの方だけじゃないと思うんですよね。恐怖感と言いますか。

 

それってすごく気持ちの中に占めるウェイトが大きくて、それが大きくなりすぎると外に出られなくなっちゃたりとかいうのもあるんです。

盲学校が視覚障害の方たちの社会を繋いでいく役割になれれば

Q.最後に、盲学校が担う役割は何だと思いますか?

 

一つエピソードを交えてお話しさせて頂きますと、生徒に何か目標が見えなくて、真面目だけで今まで来ているお子さんがいたんですね。そのお子さんに「パラリンピックを目指してみないか」とすごいテーマを持ち掛けた先生がいるんです。本人は「えー!」って言いながらも引き込まれていくんですね。今では本気で狙っているんですよ。

 

普通の学校と違って、盲学校ってすぐ全国大会なんですよね。そこから世界にチャレンジしようと思えば、応援してくださる組織とかシステムがあるので、あとは子どもたちに「やってみない?」ってその気にさせる人がいるかどうかですよね。

 

そういう何か「夢」を与えて、本気にさせちゃう教員って、自分の職場に居ながらすごいと思うんですね。
また、そういう方が複数いるんです。地方の小さな盲学校であっても、「夢」を描くことにおいて大都市の大きな盲学校には負けないという思いでいられるのは、そういう先生方のおかげですよね。

 

何とか障害のある方の力になってあげたいと思ってくださる方が結構いらっしゃる。障害のある方も現状に満足しているわけじゃなくて、「何かやりたい」とは思っている。ここがなかなかうまく結びついていない、っていうのが一つ今の課題かなと思いますね。

 

国の方でも特別支援学校が一つの活動の場所となって在校生や卒業生が日常的にスポーツが楽しめる場所になって行ったらいいね、というような構想を持っています。松本盲学校も出来ればそんな場所になって、在校生や地域の小中学校生、視覚障害のある方が遊びに来て、できるスポーツをしてひと汗かいて帰っていけるようにしたいなと思っているところです。
また、視覚障害がある方自身が先生として勤務されているので、将来ああいう風に生きていきたいな、という一つのロールモデルが校内にあることは盲学校の強みでもあると思います。視覚障害になられて辛い思いをされている生徒さんが、先生との出会いによって人生を取り戻した、っていうような経験を積まれると、今度は自分が次から上がってくる皆さんを安心して暮らせるように接してあげようと思ってくださるいい環境が生まれることになると思いますね。

 

盲学校には視覚障害のある方たちを社会に繋いでいくというような役割もひょっとしたらあるかもしれませんね。

 

取材日:2017年4月13日

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