一般社団法人日本心のバリアフリー協会代表理事 杉本 梢様
あのとき一言が言えなかった、あのとき行動していれば…。目の前で困っている人がいるのに、一歩踏み出せなかった――そんな経験はありませんか?
今回は、そんな「心のバリア」を解きほぐし、バリアのない社会を目指して活動を続ける一般社団法人日本心のバリアフリー協会 代表理事・杉本梢さんにインタビューしました。
日常生活のさまざまな障壁を取り除くため、「日本の心のバリアフリー」を広める彼女の想いや今後の目標について詳しく伺います
杉本梢さんのご活動について

視覚に障害を抱えて生まれた境遇と、支援学校で11年間教員として勤めた経験を活かし、2018年より個人で「障害理解」を啓発する活動を始めた杉本さん。コロナ禍を契機にYouTube、TikTok、InstagramといったSNSを活用し、多くの人が共感し、親しみを感じる情報発信を精力的に行っています。TikTokのフォロワーは4万人以上にのぼります。
2023年には、社会的障壁を理解する「障害理解」の枠を超え、差別や偏見といった心の壁を取り除く「心のバリアフリー」へと活動の領域を広げ、一般社団法人日本心のバリアフリー協会を設立。
現在は札幌を拠点に、全国の団体や地方自治体、学校に向けた障害を含むマイノリティへの理解啓発の講演会や研修を行うほか、障害者・高齢者の雇用に取り組む企業や就労支援事業所向けのサポートにも力を注いでいます。
まず初めに「心のバリアフリー」を広めようと思ったきっかけと、法人設立のきっかけをお教えください。

視覚に障害をもって生まれた私は、見えにくさを理解してくれる方々に支えられながら生活してきました。一方で、理解されない場面や、心が傷つき、やりきれない思いを抱えた経験も数多くありました。
そうした中、特別支援学校の教員時代に「障害理解」と「心のバリアフリー」という概念と出会い、障害への差別や偏見は「障害について知ることで軽減される」ということを学びました。また、障害への理解が社会に広がることで、障害を含むさまざまな事情を抱える人々が安心して過ごせる社会が実現できるとも感じました。
そのような社会を目指し、法人を立ち上げる決意をしました。現在は、障害の理解を切り口に「心のバリアフリー」を広める活動に取り組んでいます。
その取り組みのひとつとして、誰もが無料で参加でき、「心のバリアフリー」を推進する機会を作りたいと2024年夏にクラウドファンディングに挑戦されました。この取り組みについて詳しくお聞かせください。

普段の活動では、企業からの依頼を受けて講演会を行っていましたが、その場合、聴講者は企業の社員や特定のコミュニティに限られることが多く、より幅広い層へ情報を届ける機会が限られていました。
そのため、今回は私自身が主催者となり、誰でも参加できる講演会を開催することに決めました。これにより、より多くの方々に「心のバリアフリー」の重要性を広める場を提供したいと考え、行動に移しました。
特に、法人設立後初の大きな挑戦として、法人名に「日本」を冠したことから、「日本中の皆さんに関わっていただける場を作りたい」という思いがありました。主要都市を巡り、できるだけ多くの方々と直接お会いできる機会を作るべく、準備を進めてきました。この取り組みを通じて、多くの方々に「心のバリアフリー」を知っていただき、それをきっかけに行動を起こしていただけることを目指しました。
約一ヶ月の募集の結果、約130名の方から100万円以上の支援をいただきましたが、この取り組みを通じて感じたことを教えてください。
クラウドファンディングを実施することには、心のバリアフリーがどれだけ皆さんに必要とされているのか、またその認知度を正しく伝えられるかという点で、不安や怖さもありました。実際に、心のバリアフリーの必要性を伝えることにはとても苦戦し、その度にこの活動が本当に必要とされているのか自分に問いかける期間にもなりました。

ご支援いただいた資金は、各開催地の会場レンタル料や施設使用料、移動費、宿泊費、人件費、広告費などに充てさせていただきました。この経験を通じて、法人で「広める」という視点が、「日本に住む皆さんと一緒に広めていくことで心のバリアフリーが進む」といった視点へと変わり、大きな収穫を得たと感じています。
2024年10月から12月にかけて、全国4箇所(札幌、東京、大阪、熊本)で実施された「心のバリアフリー」講演会についてお伺いします。
私たちも、11月15日に東京・品川で開催された「心のバリアフリー日本講演in東京」に参加しました。30名以上の方々が参加された講演でしたが、実際に行動されてみて、どのようなものを得ましたか?

今回の講演会では、各地で多くの方と直接触れ合うことができ本当に嬉しい時間を過ごしました。コロナ禍では、直接お会いすることが難しい中、SNS発信に力を入れ、多くのフォロワーの皆さんに支えていただきました。ただ、その発信は一方通行に感じることも多く、届いている実感が薄かったのが正直なところです。しかし、今回の講演会では「勇気をもらった」「これを頑張れた」など、それぞれのストーリーを直接伺うことができ、やってきてよかったと心から感じました。心のバリアフリーを届ける場であると同時に、皆さんからの応援に改めて支えられていたことに気づかされる場となりました。
会場開催にこだわった理由を教えてください。

直接お会いすることが、心のバリアフリーを伝える上で何よりも大切だと考えています。オンラインでも活動はしてきましたが、直接会うことでしか伝わらない空気感や温度感があります。特に私自身、視覚に障害があるため、画面を見ることができず、相手の表情や雰囲気を感じ取ることが難しいのですが、対面でお話しすることで初めて心が通い合う瞬間があると実感しています。そのため、全国各地で会場開催という形にこだわり、一人ひとりに心のバリアフリーを直接届けたいと思いました。
会場準備も大変だったんじゃないでしょうか。
そうですね。本当に各地域でお世話になっている方々の力をお借りして準備を進めました。例えば東京ではアクセスのしやすさや会場の雰囲気などを地元の方に相談しながら決めました。それぞれの地域での特色を活かしつつ、参加者が集まりやすい環境を整えることを心がけました。
印象的な出来事やエピソードはありましたか?

どの会場も本当に印象的で選ぶのが難しいのですが、特に熊本の追加公演は心に残っています。講演会だけでなく、地元の方々が子どもたちに向けた特別な場を用意してくださり、そこで新たな経験をさせてもらいました。これまで自分の法人だけで頑張ろうとしていましたが、地域の方々や他の活動をされている方々とコラボレーションすることで、さらに広がりのある活動ができることを実感しました。それが今回の大きな収穫であり、今後の活動にも大きな影響を与えてくれると感じています。
また、オフ会では参加者と個人的に深い話ができたり、一人ひとりに発言していただく場を設けたりしました。そのことで、集まった方々同士が自然とつながり、新しいコミュニティが生まれたことも大変嬉しかったです。講演会の中で感想をシェアする機会もあり、共通する思いや価値観を感じられたことは、私自身にとっても貴重な経験になりました。
団体として、今後どのような展望をお持ちですか?

今後の展望として、大きく3つの柱を掲げています。
1つ目は、障害者差別解消法の改正により合理的配慮がさらに求められる時代を迎えた今、障害者雇用を軸に活動を展開していくことです。企業の皆様、就労支援に携わる支援員や事業者の皆様、そして当事者の方々に向けて、具体的で役立つ情報やサポートを届けたいと考えています。
2つ目は、広く一般の方々への発信活動です。これまでクラウドファンディングを通じて実施した講演会のように、講演活動やSNSを通じてメッセージを発信し続けたいと思っています。
3つ目は、未来を担う子どもたちへの取り組みです。子どもたちが障害や多様性について学び、考えられる機会を作ることを目標としています。
現在の拠点は札幌ですが、共に活動したいと思える仲間と協力し、全国各地へと活動を広げていきたいです。多くの方と手を取り合いながら、より多くの地域でこの取り組みを実現していきたいと考えています。

日本の心のバリアフリーを達成するために、現在お考えになっていることをお聞かせください。

SNSのフォロワーが増えていくことは、私自身の活動が多くの方に届いている実感を得られる場となっています。しかし、この活動は私だけで完結するものではありません。
私は、心のバリアフリーを広める活動が自分の人生を通じて続けていくものだと考えています。ただ、その中で大切なのは、私に続く人が生まれることです。これまで私が中心となって進めてきた活動を、次の世代が引き継ぎ、彼らが中心となって取り組むようになったとき、私は「この活動が広がった」と実感できるのだと思います。
そのためにも、活動を次の人たちに託し、途絶えさせない仕組みをつくることが私の役割のひとつだと感じています。この思いを胸に、未来へと繋がる道を作り続けていきたいです。
最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。

私の活動は、視覚障害を切り口に「心のバリアフリー」について触れていただくことを、仕組み化して行うというスタイルです。
この分野は本当に、まず「知っていただくこと」から始まります。この記事を読んでくださった方々は、「1つ知る」という大切なステップを踏んだことになると感じています。
さらに、もう1つ進んでいただけると嬉しいです。私の発信していることでも、または自分が興味のある障害やマイノリティについて、少し検索して学んでみてください。
読書が好きな方は本を、動画視聴が好きな方は動画を通して、知識を深める時間を自分の生活に取り入れていただけたらと思います。
この記事が、皆さんが次の一歩を踏み出すきっかけとなり、続きの道に繋がっていくことを願っています。
取材日:2024年11月15日、12月20日
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