障害福祉サービス 就労継続支援A型事業所 はばたき作業所代表取締役 高岡 美恵 様
京林 将行 様
大阪府八尾市で就労継続支援A型事業所を営む「はばたき作業所」にお邪魔して、代表の高岡美恵様と京林将行様にお話を伺ってきました。
就労継続支援A型事業所は、障害や難病があって一般企業で働くのが難しい方に、雇用契約を結んだ上で就労の機会を提供する福祉サービスです。はばたき作業所は、「働くことを諦めないで良い地域を作る」を理念とし、八尾で一番自分らしく働ける就労継続支援A型事業所を目指しておられます。2022年10月から、誘導マット「歩導くん ガイドウェイ」の出荷前作業などをお手伝いいただいており、すべての人が自由に移動できる空間づくりを支えてくださる縁の下の力持ち的な存在でもあります。
Q.現在はばたき作業所では何人ぐらいの利用者さんが働いていらっしゃいますか?
京:利用契約は31人です。
高:1日の平均では18~19人ぐらいでしょうか。
京:長期お休みで来られていない方も何名かおられますので。
高:病気や障害の特性で週4日ぐらいの勤務が(心身が)安定するとか、働く以前の生活パターンを崩せない部分があったりするので、そのあたりに気をつけながら働かれています。
Q.どういった障害の方が働いておられますか?
高:精神障害の方が6~7割ぐらいですかね。障害者手帳の区別でいうと精神・療育・身体とありますが、その中で精神の方が多いです。
京:身体の方が一番少ないですね。手帳の区分なのでややこしいですが、発達障害も精神の方に分類されるんですよ。
高:あと高次脳機能障害のように、事故や脳梗塞などの後遺症で脳に後天的な障害を負った方も精神障害になるんです。
質問への受け答えをしてくださっている高岡さん(右)と京林さん(左)
Q.利用者さんはふだんどのようなお仕事をされていますか?
京:約半数の方が施設外就労という形で、八尾南のほうにある企業さんの工場に出向いて働いています。仕事内容としては福祉用具の洗浄です。それ以外の方はここで内職系の作業を行っています。あと便利屋もやっていて受けられそうな依頼には対応しています。
高:軽作業はそのまま商品になるものより、こっちの工場とあっちの工場から集めてきた部品を組み立てて別の工場に持っていくというようなスキマの作業をいただいています。
Q.では歩導くんについてお聞きします。主にどのような作業を受けてくださっていますか?
京:洗浄、ワックスがけ、裏の両面テープ貼り、マジックテープの型抜きなど8項目にわたる作業を行っています。
Q.作業していただいているのは決まった利用者さんでしょうか?
京:今はまだ得意そうな方を見つけようとしている段階なので、手が空いていて器用そうな方にやってもらっています。ゆくゆくは固定に、と思っています。
Q.実際に一通りの作業をやっていただいてどのような印象ですか?
京:ある発達障害の方は、手がつるぐらいまでゴシゴシ清掃していて「もう嫌だ!」となったので今は違う作業をしてもらっています。こだわりが強くてどこまで綺麗にすればよいかわからなかったんだと思います。発達系の方は言葉で指示を出しても理解の仕方が違ったりして、こちらの思い通りには出来上がってこなかったりもします。
Q.今は試行錯誤しながら、この人だったらとかこういうやり方をすれば、というのを掴んでいこうとしている状態なんですね。
京:はい。でも最初はできなくても時間をかければできるようになったりします。慣れるのに他の人より5倍も6倍もかかったとしても、最終的に誰よりも上手にできることもあるんです。
Q.歩導くんは「すべての人が共存できる移動空間」を目指しているのですが、この製品についてどう思われますか?
高:私は以前、重度心身障害者といって知的にも身体にも重度の障害がある方の支援をしていたことがあるんです。そのとき車いすを押していて点字ブロックの凹凸がすごく通りずらいと感じていました。あるとき「みせるばやお(※)」で歩導くんを見て、スッと通れるしすごく良いなと思いました。目が悪い方でも足が丈夫だとは限らないですし、足底が上がらない方は点字ブロックを避けて歩くと聞いたことがあります。あと色がカラフルなので、病院でピンク色を伝っていったら婦人科とか、ブルーを伝っていったら小児科とかになればもっと良いなと思います。
(※)大阪府八尾市の中小企業が結集し、ものづくりを通じて社会貢献をしたり、ものづくりの魅力を発信している施設および共同体
詳しくは「みせるばやお」公式サイトをご覧ください。
Q.地域で共生社会が進むためにどのようなことが必要だと考えますか?
高:障害者・健常者と区切って考えるのがどうかなと思うことはあります。障害者支援なので障害者という区分は必要なんですが、当事者も「障害があるからできない」と言い訳に使ったり、コンプレックスになっていたりするので……。それと本人が障害や特性を受容して社会の中に溶け込んでいけたらと思います。そのためには受け入れ側の準備も必要でしょうね。福祉業界って今までは本人主体の支援だったんですが、本人だけでなくその人を支える家族をさらに支える、そういう働きかけが必要じゃないかなと思います。
京:今の福祉の考え方は、障害者をどれだけサポートするか、よりも将来的にどれだけ福祉のサポートがなくてもよい状態になってもらうか、なんです。身体障害の方だと環境整備によって解決できることが多いのですが、精神障害の方を対象に地域で取り組めることって難しいですよね。意見を集めてもみんなバラバラだったりしますから。
高:ただ、ようやく精神障害という言葉が社会的弱者として捉えられるようにはなりましたね。10年ぐらい前までは精神疾患(精神の病気を持っている人)というイメージが強くて、病人は障害者じゃないし受け入れ難いと思われて差別的な扱いをされることもありました。それが障害者自立支援法ができて、「働いていいよ」と国に言ってもらえたと感じていらっしゃる方も多いです。
Q.福祉とか障害者支援の仕事をされている方からすると着実に変わってきたということでしょうか?
京:この10年ぐらいでだいぶ変わった気がします。芸能人の方が病名をカミングアウトして休養されるようになりましたし、発達障害の人が主人公のドラマも増えました。発達障害がどういう人なのかを知れば、みんなふつうにお付き合いできると思います。なので少しずつ理解は進んでいますが、まだまだ周知期間中といった感じですね。
Q.ではこれからのことをお伺いします。利用者さんには将来どのようになってほしいと思われますか?
高:利用者さんの人生なのでご自身が望んだベターぐらいで良いかなと思います。こうなるべきとかではなくて。
京:あまり決めつける感じではないですね。個別支援計画というのを立てて面談をしているのですが、こちらが決めるのではなく、その人の意思を決定するお手伝いをしています。
高:本人さんが望んだ生活ができればそれが一番です。できたら働いてほしいとは思いますが。
京:頑張って納税者になってくれたらありがたい、というぐらいですね。
Q.社会がこうなったらいいなというのはありますか?
高:とりあえず戦争が終わってほしいです。怖いニュースを見て調子が悪くなる方とか、難民の泣いている子に感情移入して、鬱の症状が強くなる方とかもいらっしゃいますし。
京:ニュースの影響は大きいんですよ。自分と同じ属性(年代・性別など)の人が訪問販売を偽った強盗に襲われたというニュースを見て、いつ自分のところに来るかわからない、と誰も家に入れなくなったりします。
高:平和な社会になってほしいです。
Q.最後に、はばたき作業所としての今後の目標などあれば教えてください。
高:生産収入(利用者さんの工賃を支払うための作業収入)を上げたいと思っています。今いただいている仕事の中で、利用者さんがやって最低賃金の時給分を稼げる仕事ってほとんどないんです。不足分は国から出ている福祉サービスの利用報酬で補っていますが、ゆくゆくは法的な規制が強まってそれができなくなることも考えられます。そうなるとA型事業所をやめるとかB型に切り替えるとか、方向性を検討しなければなりません。それでも利用者さんがいらっしゃいますので、A型として続けていけるよう模索しています。
京:障害者の方も居場所がなくなったら困りますから。ただ、作業系の仕事は限界が見えているんです。たとえば、時給分に見合う作業量としては1時間に10個作らなければならない。でもそんなには作れない。仕事を出す側からすると(健常者なら)できるからそれ以上の金額は出せない、となります。
高:ですので、作業部分だけを受けるのではなくて、自分たちでモノを作ってそれを売っていければいいなと考えています。
取材日:2022年12月13日