Guideway歩導くんロゴ

072-992-2328

受付時間(平日9:00~17:00)

インタビュー

代表 白倉 栄一 様

車いす目線から見る真のバリアフリーとは

バリアフリースタイル代表 白倉 栄一 様

「バリアフリーの仕事は自分だからこそできるよな」と考えるように

Q.現在の活動に至るまでの経緯について教えてください。

 

24歳の時に交通事故に遭い脊髄損傷となりました。車いす生活になって初めて、ホテルのバリアフリールームを予約したときの出来事が起業に至るきっかけとなったんです。

 

実際に行ってみると、ただ単に広いだけの部屋で、トイレには段差があり、ドアの幅も狭かったんです。これではバリアフリールームと呼べるようなものではなかったです。仕方がなかったので、その旨をホテルのフロントへ伝えたところ、「我慢してください」と言われたんです。そのときは「えっ!」と驚きましたが、今のようにバリアフリールームが多く設置されている時代ではなかったので、他のホテルを探すこともできなかったと思います。ちょうど2000年前後ぐらいの出来事だったような…。

 

この経験をしたことで、情報が正しいものでないと、私と同じ立場である車いすユーザーは、間違いなく戸惑うだろうし、安心して外出できなくなってしまうだろうなと痛感しました。

 

それがきっかけで、仕事の休日には、いろいろなスポットに外出して、バリアフリーの情報を自ら探すことにしました。そして集めた情報を自分のブログで紹介したらどうかな?と考えるようになったのが、ちょうど2005年頃でした。しかもたまたまこの時期にブログというものが流行りだし始めていたので、気軽な気持ちでブログを始めてみました。

 

Q.どのようなことを掲載されていたのですか?

 

大したことではないんですけどね。写真を撮って、住所を掲載して、「ここにはトイレがありますよ。身障者用の駐車スペースがありますよ。」ということを発信していた程度です。加えて、近くに面白いスポットがありますよ。などの情報も加えて、ほぼ毎日、投稿していました。でも、はじめのうちは、私のブログを見てくれる人はいなかったですね。それでも、徐々に閲覧者が増えていき、「あなたがアップしてくれたから助かりました」という喜びの声を頂くようになったんです。

 

その後、2010年頃から「バリアフリーで何かお仕事ができないかな…?」と思うようになりました。ただ当時はイオンで、仕事をやりながら、労働組合の活動もしていたため、忙しさのあまり、本格的に起業を考えることはできませんでしたね。

 

さらにその後も「人のために何かできないかな」という思いが日々強くなっていたのですが、店舗の人事総務課長に就任したこともあり、より忙しくなってしまいました。そのため起業に向けて行動をする余裕は、全くなくなってしまいました。

 

仕事はかなり充実していて、手前味噌になりますが、2013年下期にてイオン全449店舗を対象にした顧客満足度で全国1位の店舗として表彰をうけることになりました。これは長い間、自分が関わってきた従業員のQC活動によるチームビルディングが、お客さまへの接客・応対に影響したことだと思っています。まさに「ES(従業員満足)なくしてCS(お客さま満足)なし」で成し遂げたことだと思っています。このときばかりは、従業員のみんなと喜び合ったのを覚えています。

 

しかし私の所属していた店舗は、つくばエクスプレスの誕生によって、街が大きく変わり、大型ショッピングモールが次々と建設される地域でして、競合店との兼ね合いもあり、2015年9月をもって残念ながらお店が閉店してしまったんです。閉店後は別のイオンの店舗に異動したのですが、このときに少し気持ち的に余裕が出てきました。そこではじめて、本格的に起業を考えることになったんです。

 

当時42~43歳くらいでしたが、会社が嫌だったとかではなく、「今の自分の仕事は他の人でもできるだろうな。でも、バリアフリーの仕事は自分だからこそできるよな。」と考えるようになり、「これからの人生は、自分のやりたいことを正直な気持ちでやってみよう!」と思ったことで、起業の学校に通い始めることになりました。

たくさんの志に出会い、勇気とワクワクをもらい、準備期間を経て誕生日に起業

Q.起業にあたってどのようなことをされましたか?

 

まずは起業の学校でもある「天職塾」に入会したことです。経緯はたまたまAmazonのサイトで「起業」と検索したところ、三宅哲之さんの著書『好きなことで起業できる』が出てきて、試しに購入してみました。読み終わった時に、著者である三宅さんに相談したいと思い、電話したのがきっかけで、天職塾へのお誘いを頂いたんです。

 

天職塾の会合に参加したら、ものすごい刺激を受けました。中には大手企業の高い役職にいらっしゃる方もいて、私が「今ある環境を捨ててまで、何で起業したいのですか?」と質問すると、「やりたいことがあるから会社を辞めてでも起業したい!」という声が返ってきました。その場に参加している方々は、みんな目が輝いていて、私の気持ちがワクワクしてきたことを覚えています。

 

もう一つは、セミナーやコンサルで有名な和田裕美さんのラジオ「WADA CAFE」に投稿したら、起業で悩んでいることを取り上げてもらえたことも大きかったです。和田先生から頂いたアドバイスは、「あなたはバリアフリースポットの情報を伝えることがビジネスであると思っているけれど、それはほんの1%に過ぎない。あなたの経験に基づいて進めば、もっともっと人の役に立てることがあるはず。だからいろんなことを考えてみて、付加価値のあるビジネスを作ってみて下さい。」とおっしゃってくださいました。心からうれしかったですし、勇気が湧きました。

 

その後、迷うことなく、思い切って会社を辞めて、起業することを決意しました。そして退職時に残っていた有給を使って、まだ行ったことのない全国各地のバリアフリースポットを調べるために日本一周をすることになったんです。そして翌年の自分の誕生日に起業しようと決意し、8カ月ほど起業準備をしました。その後、無事誕生日に起業しました。

 

幸せなことに最初の仕事が前職でお世話になったイオンでの講演会でした。とても嬉しかったですね。

多くの企業の皆さまにバリアフリーの魅力を感じていただく
きっかけづくりになりたい

Q.今、一番やりたいことは何でしょうか?

 

店舗のバリアフリーのサポートをやりたいです。特に飲食店ですね。
実際に携わった案件ですと、元々バリアフリー化された飲食店の例があります。
多目的トイレの手すりや便器などが車いすを利用している筋ジストロフィーのお客さまにとって、使いづらいものだったので、ちょっと見に来てほしいとお願いされました。

 

実際に私もトイレを利用してみたのですが、スペースが狭いのと、便器の位置などに課題がありました。そこで私のアドバイスで、トイレをタンクレスにしたり、便座の向きを180度変えたり、両側に手すりを取り付けたりして、大がかりな改修工事をしました。

 

この案件がとてもいい経験になりました。オーナーもその後、筋ジストロフィーの方から喜ばれたとおっしゃっていたので、私自身、とてもうれしかったです。その経験をもとに、イオン時代の経験も活かして、接客・応対も含めたバリアフリーをしていくことが、集客につながるバリアフリーになると考えるようになりました。

 

日本一周をしたときに感じたことなのですが、設備はしっかりしているけれど、「従業員の対応ができていないからまた利用したくない」というお店がいくつもあったんですよね。イオンで働いていた時の経験を活かして、それをなんとかしたいと思いました。
そこで、顧客満足度1位に輝いたときに行っていた、従業員に向けたチームビルディングを研修で使えないかと考えています。

 

この「従業員のチームビルディング」を通して、お客さまへのサービスレベルを維持・向上できるとともに、車いす利用のお客さまへのアプローチなどを習得すれば、店舗が大きく変わり、集客にもつながり、売上もアップでき、人に優しい店舗にもなるにちがいないと思っています。それを「真のバリアフリー」と名付けて活動しています。その他にもセミナーやライターなどの仕事もしていますが、これらを通して、多くの企業の皆さまにバリアフリーの魅力を感じていただくきっかけづくりになればと思っています。

 

真摯に向き合うことが大事ですね。

 

そうですね。しかし、まだまだ開業して1年半ということもあり、今はとにかく人とのご縁や繋がりを大切にしていきたいと思っています。ありがたいことに講演会のお話なども頂いておりますが、私としては、自分が直接、店舗などのバリアフリー化のサポートをしたいという気持ちが強いです。一店舗でもそういう店舗が増えていくとバリアフリー化を見届けることができるので嬉しいです。

「情報の見える化」が一番のバリアフリー 

Q.今は飲食店に焦点をとのことですが、今後はどうしていきたいですか?

 

将来は、宿泊施設なども可能であれば、サポートしていきたいと思っています。

 

宿泊施設は、残念ながら利用者側の視点から考えると、バリアフリー化での課題がかなりあるように思っています。特に「情報の見える化」における課題があって、ほとんどの宿泊施設は、情報を開示されていないために、利用者にとっては本当にバリアフリーなのか不安を感じてしまい、行く前から不安が解消されないんです。しかも実際に行ってみると、「ここは自分が思っていたようなバリアフリーではない」ということもよくあります。私自身がそういった経験を何度もしてきましたから。

 

その点、利用者側の視点に対して、うまくいっている事例があるんです。ビジネスホテルチェーンの東横インさんです。10年くらい前には、世間からバリアフリーの件でいろいろと叩かれたものの、その後はバリアフリーの改善にいち早く取り組んで、今では車いす利用者からは絶賛の人気のあるホテルになっているんですよ。その大きなポイントは、ホームページによる「情報の見える化」です。部屋の写真があって、間取りがどうなっているかも確認できる。そして、貸し出しできるものをきちんと閲覧できるようになっているんです。しかも従業員の皆さまのバリアフリー対応もとてもいいので、車いす利用者は安心して利用することができるんです。私もすでに何十回も利用していて、毎回満足しています。

 

このような「情報の見える化」によって大きく変わるのです。なぜなら車椅子に乗っているといっても、立位や歩行ができる人もいればそうではない人もいるわけで、一概にバリアフリーだからという表記だけでは、判断がつかないんです。言い方を変えれば、自分の障がいは自分が一番知っているわけであり、自分がこのホテルなら泊まれるという判断ができることが重要なポイントなんです。そのため、判断できる材料を揃えておけば、お客さまとのトラブルには軽減されると思うんです。

 

またテレビ番組でコメンテーターの中谷彰宏さんが「バリアフリーの対応は設備ではなく慣れである。完璧を求めようとするから難しい」とおっしゃっていました。課題は企業側にも車いす利用者側にもあって、質問の仕方や回答の仕方で大きく変わる点です。例えば、質問する側も「バリアフリー対応ですか?」と聞くから、受け手である企業側が身構えてしまうんです。そこで「朝のビュッフェはどうですか?入り口の段差は何段ありますか?」と具体的に質問を投げることによって、「1段です」と返ってきたら、「それをお手伝い頂けますか?」と具体的な会話をすることによってうまくいくんです。逆に企業側からすれば、「どういった点をご要望ですか」と聞けば、具体的な要望が返ってくるわけです。

 

どうしても慣れないとお互いについつい完璧を求めてしまうんですよね。でも実際に完璧なんて作れないですからね。世の中の全員がその施設を利用することはできないかもしれないけれど、今まで利用できないと思っていた人が何人かだけでも利用できるように変わっていくことができれば、大きな前進になると感じています。そういった仕事を車椅子目線を通して、関わっていきたいと思っています。

 

そうですね。弊社の「歩導くん ガイドウェイ」もそうですが。
正直、視覚障がいの方があの誘導マットで分かるのか?と言われますと、点字ブロックと比べられた場合は凹凸もないですし、分かりづらいところもあると思います。しかし、視覚障がいの方が「でも、分からないわけでは無いので、この誘導マットを導入することによって車いすの方や他の方と一緒に居られる空間ができるのであれば、それも一つの選択かな」とお話を頂いたことがあります。

 

そうです。そうです。そういうことですよね。僕もその考えしかないです。
選択肢が広がればいいし。見方や見せ方を少し工夫することで、変わっていく事もありますし。「当事者に判断してもらうこと」がとても大事なポイントだと思います。

 

当事者と企業の間に僕が入ることによって、企業の想いを汲んだカタチで解決をしていきたいですね。多くの企業の方々に動いていただくことで、世の中は進展していくと思っています。

 

企業の皆さまがバリアフリー化をしていくことで、(企業の)売上が上がったとか、お客さんが増えたとかにつながり、最終的に車椅子利用者が行ける選択肢が増えることにつながるというwin・winの関係を作りたいと思います。

テレビなどで車椅子利用者が、何気なく食べ歩き番組に出ていても おかしくない社会を創りたいですよね。

Q.少し踏み入った話をしますが、「障がい者」として感じることはありますか?

 

今はやはり「特別な存在」だとか「車いすの方は頑張っている」とか「辛い思いをしている」というイメージが強いんですよね。テレビ番組の影響などで。そうではなくて「普通の人なんです」と。

 

さっきここへ来るときにも感じたのですが、ティッシュ配りの人に会っても、車椅子利用の私にティッシュを渡そうという人はほとんどいないんですよ。あえて渡そうとする手を引っ込めちゃうんです。私の想像ですが、「きっと車いすを操作してるから貰いにくいだろうな」とか「この人に渡しても意味がないだろうなぁ」とごくごく自然にそういう風に考えているところがあると思うですよね。だから、「渡してもいいのかな…?」って思っちゃうんですよね。それが今の日本の社会のように思えます。

 

だからこそ私には想いがあるのですが、テレビなどで車椅子利用者が、何気なく食べ歩き番組に出ていてもおかしくない社会を創りたいですよね。そうなることで、これから増えていく高齢者であったり、障がい者になって引きこもっている方々にも、気軽に外出することができて、人目をあまり気にしなくてもいいような人に優しい環境になってほしいと願っています。私自身、昨年は「NHKのど自慢」に出場しましたが、スタッフの方々は、特別扱いすることなく普通に接してくれました。こういう環境がうれしいんです。ぜひともそういった環境を作りたいですね。

 

オリパラの効果もあってか、最近はよく障がいをお持ちの方が取り上げられることが多くなりましたね。

 

そうですね。僕のたちの中では、乙武さんの登場によって、車いすの方への見方が一気に変わりました。話によると、小学校などでの車いすの受け入れがしやすくなったとか、旅とかも含めて社会が変わりました。

 

そして、漫才師の濱田祐太郎さんの活躍もあって、障がい者のハードルが下がったように思います。R-1グランプリが終わった後、色んな意見がありました。中にはネガティブなものもありましたね。「こんな視覚障がい者ネタは不謹慎だとか」とか、「他の視覚障がい者に対して失礼じゃないか?」とかあったわけですが…。でも、別に濱田さんは他の人を批判したわけでもなく、「自分の視覚障がい者あるある」を言っただけなのに、なぜかネガティブに捉えてしまう人が多いことに、日本が共生社会に対してかなり遅れていることが分かってきました。

 

私もリアルタイムで見てまして。ツイッターとかでも皆さんの反応を見ていたんですね。
基本は皆さん「漫談として面白い!」と仰ってましたが、やはり中には「こんな風に笑いを取って良いのか?」とかありました。でも、私も色んなご縁の中で、視覚障がいの方にお会いしたから分かることかもしれませんが、恐らく視覚障がいの方がこの番組を視聴されていたら、「あるある!わかる!」と声をあげて笑っていると思うんですよね。

 

僕もそう思います!

 

私たちも、自虐ネタをする芸人を見て「あるある!わかる!」って話をしているのに、「障がい者」というだけで、フィルターが掛かってしまうところがあるのかもしれませんね。
確かに、障がいをもって不便だなと思うことはあるかもしれないですけど、それ以外は仕事に悩んだり、恋に悩んだり、スポーツを楽しんだりと何一つ私たちと変わらないですよね。
「わたしたち」というのも区切っているみたいで表現に困るのですが、ボーダレスといいますか…。

 

そうです。そうです。変わらないんですよね。
僕、濱田さんにお会いしてみたいです!

 

私もお会いしてみたいです!

車いすの方だけでなく、色んな方と気軽に接することができるようにしたいです。まさに共生社会の実現ですね。

Q.バリアフリーについてどのように感じていますか?

 

残念ながら、世の中の関心はまだまだ高まっていないですよね。

 

でも、興味が無いわけでは無いと思うんですよ。行動に移せないだけで。ただ、行動に移せないけれど、少しでも関心を持っている人たちに、何かきっかけを作ってあげるような人になりたいですね。

 

実際に車いすのお客さまが1人いたとして、その方のご家族であったり、友人であったり、同僚であったりを連れてくるわけですから、5人にも10人にも人が増えますし、そのお店だから行きたくなるような場所に変わるんですよね。まさにバリアフリーはビジネスにも十分影響のあるものなんです。

 

たくさんお話させて頂きましたが、車いすの方だけでなく、色んな方と気軽に接することができるようにしたいです。まさに共生社会の実現ですね。そのために、少しずつではありますが、私にできることを進めていきたいと思っています。2020年の夏には、オリンピックもパラリンピックもありますし、超高齢化社会も待っていますし、何かお役にたてることがあれば、どんどんサポートしていきたいと思っています。

 

【プロフィール】
白倉栄一、1972年千葉県生まれ。1995年イオンリテール㈱入社。
車椅子でも利用できる環境を増やすために、小売店・飲食店・宿泊施設等の商業施設へのアドバイスならびに従業員教育・研修を展開。
24歳のときにスクーターでもらい事故に遭い、医師から一生車椅子生活の宣告を受ける。
必死のリハビリ生活を経て職場復帰し、38歳のときに、会社始まって以来の「車椅子の人事総務課長」として就任し活躍。従業員の働きやすい職場環境へと改善し、お客さまへのサービスレベルを大幅に向上。顧客満足度で全国1位の店舗として表彰される。
仕事の傍ら、全国47都道府県にある1000件以上のバリアフリースポットを調査し、車椅子利用者向けの情報ブログを発信。ブログでの発信を重ねているうちに、車椅子を利用されている方の笑顔をもっと増やしたいという想いが強くなり、同社を退職し「バリアフリースタイル」を設立。「健常者の目」「車椅子ユーザーの目」そして「企業のお客さま対応責任者の目」という3つの目線を持ってバリアフリー活動を展開中。

 

バリアフリースタイルHP:http://baria-free.jp/

 

取材日:2018年6月1日

前に戻る
ページトップ