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インタビュー

松下 昭司 様

今ある歩行環境を安心して歩くために

日本ライトハウス 視覚障害リハビリテーションセンター 養成部指導員・指導者養成課程教官 松下 昭司 様

「使いにくいな」という議論ではなくて
「どういう意図で実行したのか」という議論をしている

Q.歩行訓練について教えてください

 

歩行訓練士になるためには「視覚障害生活訓練等指導者養成課程」という2年間の課程を受けます。
何をするかというと、実際にアイマスクをして、どのように視覚障がい者が歩行技術を習得していくか。ということをまずは勉強します。その後、実際に(視覚障がい者に)教えるという、模擬授業のようなことをしています。アイマスクをして電車に乗ったりもします。
この養成課程は、4月から10月までは歩行訓練に特化した授業ですけれども、10月からはそれ以外の訓練をします。例えば、パソコンとか点字訓練とか、あとは日常生活訓練(歩行・コミュニケーション・スポーツ以外の事)は、お茶を淹れるとか、料理をするとか、洗濯物を畳んだりすることですね。私はパソコンと調理と墨字の訓練の担当もしています。
歩行訓練士の中には、歩行訓練だけでなく、生活訓練全般を受け持っている訓練士も多くいます。

 

Q.松下さんは何を担当されているのですか?

 

私は歩行実技と講義では歩行環境や地図を担当しています。
講義の中で、視覚障害者誘導用ブロック(以下点字ブロック)の敷き方とか音響信号とかを、基礎的な知識を講義した後、実際の点字ブロックの写真を持ち寄り、なぜこんな敷き方をしているのかを議論したりする講義があります。ですので、街中の点字ブロックの敷き方が気になったりします。

 

点字ブロックの敷き方一つにしても、色んな敷き方をされているんですよね。
「使いにくいな」という議論で終わるのではなくて「どういう意図でこのように敷設したのか」、「だからこういう風になっているんだね」という議論をしているのです。

 

視覚障害者の中でも、様々な特性があり、ある人に使いやすい歩行環境でも、ある人には使えないものもあるんです。
でも、「折角ある歩行環境なら、それを有効に使うためには歩行訓練でどのように活かしていったらいいかな。」という事を伝えるようにはしています。
例えば、「触地図」なんですけど、あれって触っている人をあまり見かけることがないと思うんですよね。なぜかというと、あれは触り方を知らないと理解しにくいということと、説明を受けながら触地図に触った方がわかりやすいとかあるのですけどね。
大体議論されるのは、あんなところに置いていても、全然誰も使わないよね。っていう事になるんです。
では、この触地図を歩行訓練で使うとどういう意味があるのかとか、これを使って歩行訓練できるかな?というように議論しながら授業をするように心掛けています。

 

ある受講生が、「調査している中でとある触地図を触ってみると埃だらけだったので拭いてきました。触るものなのに埃だらけで、いつだれが触ってもいいように拭いてきました」と。そういう目を指導者には向けてほしいなと思いますね。

2つ目の人生が始まった。
私は見える人生と見えない人生の2つ生きているわ

Q.松下さん自身が歩行訓練士をされていたのは?

 

元々、学校で講師をしていました。30歳からこちらの世界へやって参りまして…。
入ってすぐに養成課程を受講し、養成課程を卒業後、養成の方の訓練を10年ほどやっていました。

 

当時の印象に残っているエピソードを教えてください

 

訓練をしてその方の人生が変わったという例がありますね。
入所されたときは、「視覚障害リハビリテーションセンター」という名前を聞いていらっしゃったんですね。普通「リハビリ」って言ったら、その機能を「治す」とこですよね。ですので、「見えるようにしてくれる施設や」って思い込んできた女性がいらっしゃいました。
なのに、来たらすぐに「視覚に頼らないで歩く方法」を教えたりするから、「えっ?私は見捨てられたの?」って思って、ずっと自殺を考えていらっしゃったようです。口には出しませんけどね。

 

この施設に入り、自分の教室が決まったら、その日中に教室から一人でトイレに行けるように歩き方の訓練が始まり、そのあと、館内全部を歩けるように、施設のことが分かるようにする。という練習があります。
その女性の方は「目が治らないんだったら、私は死ぬしかないわ。家族にも見捨てられて、こんなところに放り込まれて。」と、館内を案内しているときも、飛び降りる場所を探していたそうです。後から聞いた話ですけどね。

 

「せめてお風呂はひとりで行けるようになりましょうね」と促して、本人も「私は見えないから歩きたくないけど、お風呂に入れないのは…。」ということで、お風呂までは歩こうと思ってくださったんですね。
この不安定な時期の女性の担当をしていたのは、優しい女性の歩行訓練士でした。色々とお話を聞いており、お風呂にも行けるようになったんですが、その歩行訓練士が産休に入ってしまい、僕が担当になったんですね。担当させていただいたその女性の方は、男性が大っ嫌いでして。加えて、僕は坊主頭で怖いという噂があったようでして「嫌や!」と思っても怖くて言えなかったみたいですね(笑)

 

ですけど、これが功を奏したのか、どんどん歩けるようになったんですよね。そのうち、お話もできるようになりまして、「先生、私ね。ここから放出(はなてん)駅まで歩けても、私の人生には意味がないから、もうここで歩行はいいわ。できたらお家の周りを歩きたい。」という風に気持ちが変わりまして、週末、お家で訓練をするようにしたんです。とても大変な地域でして、山奥に家があるんですよ。駅までが歩いて30分くらいありますし。坂道もきつくてですね。「ちょっと難しいかな。」と思ったのですが、一か月くらいで歩けるようになったんです。彼女はそれで自信がついて、訓練期間はまだあったんですけど、「私はここで一生を終えるつもりはないから、お家で生活するから辞めます」って仰って辞めたんです。

 

そのあと、盲導犬を持つようになりまして、元気になられて、学校で盲導犬についての講話をされるようになり「2つ目の人生が始まった。私は見える人生と見えない人生の2つ生きているわ」と仰っていました。

訓練士としての立場を教えてくれた方がいらっしゃいました

Q.この仕事をしていて気付きなどありましたか?

 

糖尿病をお持ちの方がいらっしゃって。
病状も進行していて、透析もされていた方がいました。

 

暑い日に訓練をして、途中で休憩で喫茶店に入ったんですけれど、その方がかき氷を注文したんです。思わず「(食べて)いいのそれ?」って聞いて怒られたことがあります。「いやいや。松下さん。あなたは僕の歩行訓練士であって、僕の医者じゃないのに、この休憩時間にそんなことを何故言うんや」と。
「僕がどのように生きようとする選択は、自分が決めるんであって、松下さんが決めるんじゃないよ」って言われまして、訓練士としての立場を教えてくれた方がいらっしゃいましたね。

 

自分がしなきゃいけない仕事、踏み込まなくてもいいところがあると思うんです。まずは「歩行訓練」という仕事を全うする。「そんなもん食べたらあかんよ!」というのは、ちょっと違ったのかな。とは思いましたね。

 

但し、その方が低血糖になられたときにどのように対処するかという知識は持っておかなければいけないのですが、その知識を持って、その方の健康管理まで土足で踏み込むのは分野が違うな。ということを思い知らされました。
その方は、はっきりと言って下さる方だったので、その後も「あ。あんぱん食べるんですね。」と僕が言っても「そや!」とか「言うなやぁ!」とか、言い合える仲にはなりましたけどね。

 
北海道や沖縄から来られる方もいらっしゃいます

Q.歩行訓練士は全国から集まるのですか?

 

現在、全国で歩行訓練士の養成校は2校しかないんです。

 

1校は埼玉にある国立身体障害者リハビリテーションセンター学院(以下:国リハ)と、1校はこの日本ライトハウス視覚障害者リハビリテーションセンターです。

 

日本ライトハウスが先に始まりまして、そのあと国リハができました。国リハは必ず2年通して受けなければいけないのですが、日本ライトハウスでは、働きながら受けられる方には、分割履修ができるようになっています。

 

6か月受けて、職場に戻って、必要があればまた6か月受けに来る。といった感じです。仕事をされている方であれば、北海道や沖縄から来られる方もいらっしゃいます。毎年、大体10人以上は研修に来られますね。

何もないところから新人なのに自分でレールを轢かなければならない

Q.生徒さんたちはどんなことで悩んでいらっしゃいますか?

 

日本ライトハウスは歩行訓練士の数も多いんですけれど、県によっては一人しかいないところもあるんですね。そうなると、ここで受講して、県に帰ってもたった一人で色々としなければならないのに、相談する方がいない。土壌がないから全て開拓していかなければならないという方もいます。
何もないところから新人なのに自分でレールを轢かなければならない人っていうのは大変だと思います。

 

ある県では若い女性の歩行訓練士が一人で視覚リハの土壌を開拓し、今は定着し充実している例もあります。また、こちらの研修会に受講に来た直後に地震に遭われて、震災後の対応や訓練を実施しなくてはならないという重責を負っている方もいます。

気づきですよね。現場に行けば分かってくるというのがいいですね。

Q.講義の時はどのような雰囲気なのでしょうか?厳しいのですか?

 

自分ではやさしく講義や実技をしているつもりなんですが、笑いながらきついこと言っているようです。(笑)
「今の「はい」は分かってないやろ?」とか「いい返事だねー。ちゃんと理解してる?」とか(笑)
現在、ホームの転落の話とかありますよね。歩行環境の講義でもホームについての歩行環境は結構力点をおいて話をしているんです。対向式とか島式とかホームの形の名前とかをすごく教えたはずなのに…忘れてるんですよねぇ。(苦笑)
「片側ホームとか櫛型ホームとか基本的なことだから覚えておいてね。今度テストするから。」といって、テスト前に一度復習しましょうって話をしたら、誰も何も分からへんっていう(笑)

 

学び場でよく見かける光景ですね(笑)

 

駅の中で音が鳴っているのも環境でして、階段のところで音が鳴っているのをご存じですか?鳥の声が鳴っているんですけれども。誰も気づいていないんですよね。
でも、そういうことを教えると、次から意識しますし、「電車が近づいてくるときの警告音も変化があります。」というのを受講生から聞いたりですとか。気づきですよね。現場に行けば分かってくるというのがいいですね。

今ある環境でも安全に歩ける方法も考えながら、
啓発もやっていく目を持っておかなければいけない

Q.どのようなことを意識されていますか?

 

環境が追い付いてきてもらうというのはとても大切なことだとは思うんですけれど、追いつくまでに視覚障がい者がそこで生活しないわけじゃないですよね。

 

今ある環境でも安全に歩ける方法も考えながら、もっとこの環境があった方がいいよという啓発もやっていくという二つの目を持っておかなければいけないなと。「ここ歩けない!」という批判をしていても、視覚障がい者はそこを歩かないといけないのであれば、この環境ではどう歩くと安全か。という目も大切にしつつ、もっとこういう風に環境を改善したら、もっと歩きやすくなるね。という啓発も大切にしましょうね。ということをいつも歩行環境の授業ではやっています。

 

例えば音響信号もそうですが、どこにでも付いているわけでは無いですから、付いていないところでは工夫しつつ、ここは付いていないと危ないところは設置を訴えかけましょうという話をしています。

 

また、歩導くんも歩行環境の授業で紹介させてもらっています。盲学校の卒業式での話をしたりしていますね。盲学校の先生も受講されに来ますので。
こういう使い方がありますよ。と言ったお話と、最近では地震があった場合に、「避難所での視覚障がい者への対応としてせめてトイレに行くまでの導線をその場にいる方が作れたらいいですよね。そのような時に、このような(歩導くん)ものが使えると、とってもいいから、もし避難所と関わりがあるのであれば、備品として置いてもらう方がいいんじゃない?」ということを提案しております。そういうところが増えると良いですね。

 

地震に限らず、最近は水害で避難することもありますので、ぐっと身近な話ですので、
もっと意識していただきたいなと思います。「そこに視覚障がい者が居てたら」という意識ですね。視覚障がい者だけじゃなく、通路に(歩導くんが)敷いていあったら、そこにいる皆さんにもわかりますしね。

それぞれの分野が、人のせいではなくて自分たちは何ができるかな。
というところに意識が向かっている

Q.バリアフリーについてどのように考えていらっしゃいますか?

 

歩行訓練士の中で話が挙がっているのは、やはり転落の話ですね。「ホームの歩行環境をどうしましょうか。」という話がでています。

 

鉄道側は「可動式柵の設置を早めましょう。」「(利用者数)何人以上のところはしましょう。」と対応を進めていますよね。今までは、そちらばかりに目が向いていたかと思います。

 

最近の動きとしては、視覚障がい者本人はどういうことをすればよいのだろうか。視覚障がい者を歩行訓練する歩行訓練士はどのように関わったらいいのだろうか。盲導犬の職員はどのように関わったらいいのだろうか。

 

それぞれの分野が、「人のせいではなくて自分たちは何ができるかな。」というところに意識が向かっているのがとてもいいことかな。と思っています。

 

当事者に「点字ブロックと可動式柵があって、どこを視覚障がい者が歩いたら良いのか」と言われました。点字ブロックの真横のところに人が並んでいるんですよね。そこに突っ込んでいく訳にはいかないし、「どいてどいて」って歩くのは自分が視覚障がい者だったら嫌だなと。であれば、「点字ブロックを伝って歩きたいと思うかなぁ。」と。でも、「それってどうなのかなぁ。」とも思ったり。どの敷き方がいいのか。「見えている方が点字ブロックよりも下がって並んでもらえれば歩けるかなぁ。」とか。何が良いのかはちょっと悩ましいとこですね。ホームも狭いですしね。

 

あと、歩行訓練ですごく大変な環境だなと思うのは、歩者分離式信号の横断の仕方というのがとても難しいですね。そこに音響信号があれば渡れますが、視覚障がい者の信号横断は車の発信音とともに信号が変わるというのを理解しているんです。自分が進行しようとしている方向と同じ方向を走行している車音が大切です。停止している車の音がアイドリングをしている音に注目して、その音が発進した音にかわれば渡れると認識するんです。ですが、歩者分離式信号となると、音が無いときに渡らなければいけない状態で、曖昧なきっかけで渡らないといけないので、難しいですよね。

 

また、ラウンドアバウト(環状交差点)という信号を設置していない交差点が推奨され始めているんです。停電とか震災が発生しても交通渋滞が起きないし、お金もかからないという理由で増えてきているんですよね。でも、それも視覚障がい者からしたら怖いんですよね。

 

あとはハイブリットカーの音もですね。発進音が聞こえにくいという。そういうところが新しい環境では課題だね。という話になっています。

 

繰り返しになりますが、啓発は必要だけども、今ある環境でどういう風にそれを上手に使っていくかを、諦めじゃなくて考えていきたいと思いながらやっています。

 

取材日:2017年9月1日

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