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インタビュー

大学案内2024 障害者版 表紙

学びたいときに
学びたい場所で
自由に学べる社会を実現する

一般社団法人 全国障害学生支援センター代表理事 殿岡 翼 様
事務局長 殿岡 栄子 様

障害の有無とは関係なく、すべての人にとって学ぶ機会は均等でなくてはなりません。しかし現実には、今なお障害を理由に大学などの高等教育機関への進学を諦めてしまう人たちがいます。自分の学びたいことを学び、好きなことを研究し、友だちと一緒にいろんな経験をする、そんな普通のことを誰もが当たり前だと思える社会にするために活動されているのが全国障害学生支援センターです。

 

今よりももっと障害者の学びに対する壁が高かった時代に、自ら道を切り拓かれた障害当事者でありセンター創設者である殿岡翼代表理事と栄子事務局長ご夫妻にお話を伺いました。

先生・仲間・職場の師がセンター設立の力へ

Q.まず最初に、ご自身の障害の状態について教えていただけますか?

 

殿岡栄子事務局長(以下、「栄」とする):私は先天性全盲です。未熟児網膜症なので両方の網膜がありません。3ヶ月以上早産で保育器に100日ぐらい入っていましたが、目以外の障害はなく丈夫で元気です。

殿岡翼代表理事(以下、「代」とする):私は出産時にへその緒が首に巻き付いて仮死状態で生まれました。脳性麻痺で全体に障害はありますが、主に右半身の運動機能に障害が出ています。

 

Q.子どもの頃の学校生活とお二方の出会いについてお聞かせください

 

代:私は最初、千葉県の普通の小学校に通っていました。そこでは配慮などなく学校生活はしづらかったです。ですが5年生のときに親の転勤で兵庫県西宮市の学校に転校しました。そのときに「私のクラスで引き受けます」と手を挙げてくださった先生がいて、そこからの学校生活はとても楽しいものになりました。

栄:当時、障害のある子どもを普通学級で学ばせるための活動をしている会が埼玉県にありました。統合教育、今でいうインクルーシブ教育に熱心な先生方の会で、西宮の先生もその会の仲間だったんです。

代:大阪の豊中あたりを中心に統合教育を推し進める運動が盛んになってきた時代で、先生の影響もあって、その頃から障害者運動の本を読むようになりました。6年生の自由研究でも「自分にしか書けないものを書きなさい」と言われてそうしたことをテーマに取り上げました。

栄:私は小学校の途中から中学卒業までは盲学校、高校から普通校に通いました。そのとき(前述した)埼玉県の会の存在を知って、ある年の勉強合宿に参加したんです。参加者の多くは、先生や保護者の方ですが、そこに当事者として私以外に代表も来ていて知り合いました。

 

Q.知り合ってからセンター設立まではどのように進んでいったのでしょうか?

 

栄:初めて会ってから数年、代表と話す機会が増えてきた頃、とある企画で5~6名の障害学生が集まることになったんです。メンバーの中には、東京大学の熊谷晋一郎さん(先天性の脳性麻痺として初めて医師の資格を取得)や、のちに日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)で活躍される吉川あゆみさんなどがいました。将来への希望や不安を語り合ったのを覚えています。

代:その後私は大学を卒業して、わかこま自立生活情報室に就職しました。もともと大学案内障害者版(※後述するセンターの主要事業)は、そこの一部門が作っていて、私が始めたものではありません。私がその仕事に携わるようになって2ヶ月ぐらい経った頃、プロジェクトとして前回のメンバーにもう一度集まってもらうことになりました。

栄:プロジェクトが終わった後、このまま解散したら後輩たちが困るのではないかとみんなの意見が一致し、会を作ることになりました。今のセンターの前身です。こうして代表は、しばらく会の活動とわかこま自立生活情報室での仕事を両方やっていたのですが、わかこまの代表の方から「自分で団体を設立してやりなさい」と大学案内の部門を譲っていただいたんです。

代:暖簾分けのような形で、それまでのデータなど一式をくださったのです。

栄:1999年4月、正式に「全国障害学生支援センター」という名前で団体を作りました。

社会課題を実感する一方で嬉しいことも

Q.ではセンターの現在の状況などについてお伺いします。スタッフさんは何名ぐらいいらっしゃいますか? また、皆さん何らかの障害をお持ちなのでしょうか?

 

栄:今は15名ぐらい。そのうちスタッフで障害がないのは1人だけです。

代:一般社団法人の理事も幹事も全員障害者です。

 

Q.続いて事業内容について教えてください。

 

栄:一番大きなものは調査事業です。全国の大学に、障害のある学生の受け入れ状況や、合理的配慮についての質問票を送ります。回収した情報を大学案内という本にして、受験生に提供するのが目的です。

 

Q.調査票の回収率はどれぐらいですか?

 

代:前回(2024年版)が47%~48%ぐらいです。一番多かった年は全体で73%ぐらい、国立だけだと90%ぐらいありました。

栄:障害者差別解消法ができた途端に下がりました。それまでは障害学生を受け入れるかどうかについて、「はい/いいえ/わかりません」を選べるようにしていました。今は受け入れないとは言えないので、答えにくくなって回答が減っています。

 

Q.法律が後押しすると思っていましたが逆のこともあるんですね?

 

代:はい。良い法律ができると、より保守的になる人が増えるんです。法律を守るためには何もしないほうがいいと考える人が一定数いらっしゃいます。

 

Q.他にはどのような事業をされていますか?

 

栄:代表が最初一人でやっていた情報誌をセンターの正式な機関紙にして、会員の方に年4回発行しています。あと調査事業で得られた情報や、私たち当事者の体験を元に相談を受ける、相談情報提供事業。それと学生交流事業というのがあります。

 

Q.相談事業を利用されるのは主に受験を控えている高校生でしょうか?

 

栄:そうですね、大半は高校生です。ただ、大学に入ってからうまく学校側と交渉できないとか、入学後に障害を発症して相談にこられる方もいます。特に授業以外での介助がまだまだで。他の受験生は勉強だけに集中できるのに、障害のある受験生は通学や入学後の生活のことなど勉強以外にも考えを巡らせなければなりません。最悪の場合、大学に受かったのに介助者が見つからない・親が送迎できないという理由から、入学を諦める方もいるんです。

代:公的な制度の不備のために学習機会が奪われるということが、現代のこの日本においてもまだ起きているんです。

 

Q.もっと知られなければならない事実ですね。一方で活動をやっていて良かったと思われることはございますか?

 

代:やっぱり大学に合格しましたとか、卒業しましたという報告をもらえたときが一番嬉しいです。

栄:実際は、直接知らせてくれる方は少ないのですが、関わった方が活躍されているのを見るのは嬉しいですね。著名な方で言うと、天畠大輔さん(参議院議員)が14歳で私たちのところにご相談に来られました。

代:彼が障害を負って半年ぐらいのころで、周りのほとんどの人は彼に意思が残っているとは思っていませんでした。あとは、先天性盲ろうで初めて大学に進学された森敦史さんもそうですし、視覚障害の成澤俊輔さん(事業家)も実行委員をされていました。

栄:他には、株式会社ミライロの垣内俊哉社長も学生交流会に来られてましたね。逆に大学を卒業しても行き場がない人たちもいるのですが、そうした方が戻ってきてスタッフとしてお手伝いしてくれるのもありがたいです。

誘導マットはもっといろんな場所にあってほしい

Q.続いて誘導マット「歩導くんガイドウェイ」についてお尋ねします。設置されていると安心感はありますか?

 

栄:はい、あります。今回から、大学にお送りする調査票の選択肢にも追加しました。どのような設備があるのかを問う質問項目の中に、誘導マットを入れています。

 

Q.ありがとうございます。では誘導マットがどういう場所にあると嬉しいでしょうか?

 

栄:楽しむための施設とかにあったらいいですね。常設でなくても、誘導路が必要なお客さんが来られたときに、仮設で設置していただくとか。

代:劇場でその人の座席のところにあるといいですよね。

栄:大学だったら障害学生支援室や学生課の窓口に絶対敷いてほしい。あと図書館にも必要です。私が学生の頃、図書館のカウンターまでが一番大変だったので。病院も、自分がもし入院したら部屋の前とか、ナースステーションまでは設置してほしいです。マンションも外は入口まで点字ブロックがあるのですが、中の共用部分は何もないので、エレベーター前に「歩導くんガイドウェイ」があるといいですね。

センターの想いと意義

Q.締めくくりとして、まず障害をお持ちの高校生へメッセージをお願いします。

 

栄:最近は、障害者に理解のある大学・配慮のある大学はどこですか?と聞かれることが多くなりました。もちろん配慮は必要なのですが、大学は勉強したり友だちを作ったり、ご本人のモチベーションがあって行くところです。何をやりたいかを考えて本当に行きたい大学を選んでいただけたらと思います。

 

Q.では最後に、今後の事業に対する代表の考えを教えてください。

 

代:すべての大学が障害者を受け入れるようになったらこうした調査は不要になりますね、と言われることもありますが、そうではありません。障害を持っている当事者自身が、いま大学はどうなっているのかを調べる行為自体が大事なことなんです。仮に、一見どの大学も障害学生の受け入れが進んでいるように見えたとしても、違いや変化は常にあります。それを当事者自身が調べて世の中に出していくことに意味があると思っています。

 

 

取材日:2023年9月6日

全国障害学生支援センター様HP
https://www.nscsd.jp/

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